奈良県内の景観条例と景観法どういう関係になっているかわかりません。

歴史的な建造物や豊かな自然環境のある奈良県内では、景観を守るために厳しい規制があります。農地転用をする際は、計画地について、どのような景観上の規制があるのか事前に調査しますが、景観法と、県と市町村にある景観条例がどのような関係になっているのか、戸惑うことがありました。

県と市町村に景観計画と条例があるけど両方適用されるの?
「景観法に基づく届出」っていうけれど、「条例に基づく届出」じゃないの?

など、いろいろ疑問がわくのです。

県の景観条例と市町村の景観条例は並列の関係です。両方の適用を受けることはありません。いずれも、景観法が「条例で定める」としたことなどを盛り込んでいます。

景観法と景観条例の関係

国の景観法って何?

景観法は、日本で初めて作られた景観に関する総合的な法律です。平成16年6月に公布されました。農地転用との関連でいうと、景観法のポイントは、「景観行政団体とはなんぞや」ということを定義して、景観行政団体が景観計画と条例を定めて景観行政を担いなさい、としている点です。

景観法自体が具体的な景観のあり様を決めているのではなく、自治体が景観行政を進める根拠を提供しているのです。

景観行政団体って何?

景観行政団体とは、景観に関する施策を一元的に行う自治体です。この「一元的」というところが大事なところです。

都道府県、指定都市、中核市は、全てが景観行政団体となっています。奈良県内には指定都市がありません。奈良市が唯一の中核市です。

このほか、景観対策に積極的な市町村は、知事と協議して景観行政団体になることができます。橿原市、生駒市、葛城市、斑鳩町、明日香村がこれに当たります。

したがって、奈良県内の景観行政団体は、奈良県、奈良市、橿原市、生駒市、葛城市、斑鳩町、明日香村の1県4市1町1村です。

景観行政団体である県と市町村は、景観行政を分担するのではなく、それぞれが一元的に行います。つまり、4市1町1村では、市町村が一手に景観行政を担い、それ以外の県内地域では、県が担います。二重行政を避けるためのすみ分けができているわけです。

例えば、橿原市内の景観行政は橿原市が担い、大和高田市の景観行政は県が担います。

奈良県内の景観行政団体

奈良県
奈良市
生駒市
橿原市
桜井市
斑鳩町
明日香村

奈良県景観計画区域(黄色の市町村

奈良県景観計画区域

景観計画って何?

景観計画とは、まちづくり上の景観に関する基本計画です。景観の形成に関する方針と区域(景観計画区域)を定めます。また、建築物や工作物の形態、色彩、意匠、高さ限度、壁面位置などの具体的な基準を明らかにします。これは自治体が行う勧告や変更命令の基準となります。景観計画を実行するための法的な支えが景観条例です。

届出が必要な行為は法律と条例で決めている

景観法第16条第1項では、景観行政団体の長に届出を出す必要のある4つの行為を列挙しています。

  • 建築物の新築、増改築、移転、外観の変更
  • 工作物の新設、増築、移転、外観を変更
  • 都市計画法上の開発行為
  • 景観計画に従い景観行政団体の条例で定める行為

①から③は全国共通ですが、④は景観行政団体が決められます。最初から条例の制定が想定されている法律になっているわけです。そういう意味では、④も「景観法に基づく届出」といえます。

勧告、命令は「景観計画」しだい

景観法では、景観行政団体の長は、景観計画から逸脱する行為に対して、勧告や変更命令をすることができます。

景観法第16条第3項では、景観行政団体の長は、届出した行為が景観計画に定められた制限に適合しないと認めるときは、設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告することができる、としています。

また、景観法17条第1項では、条例で定めた特定届出行為について景観計画に定められた形態意匠の制限に適合しない場合に、景観行政団体の長は、設計の変更その他の必要な措置をとることを命ずることができる、と謳っています。

奈良県の景観行政は?

隅々まで景観計画区域

それでは、奈良県の景観計画はどのようなものでしょうか。この計画の対象区域は4市1町1村以外の奈良県全域です。4市1町1村はそれぞれ独自に景観計画を作っています。奈良県内はすみずみまで、なんらかの景観規制を受けているのです。

奈良県の景観計画区域は、「一般区域」と「重点景観形成区域」に分かれます。「重点景観形成区域」は、国道24号線、中和幹線などの道路周辺です。

届出が必要となる基準は、「一般区域」より「重点景観形成区域」の方が厳しくなっています。例えば建築物の新築では、「一般区域」が「高さ13m又は建築面積1000㎡」、一方の「重点景観形成区域」(広域幹線沿道区域)では「高さ10m又は建築面積500㎡」となります。

景観計画では、勧告や命令の基準となる景観形成の基準についても細かく定められています。例えば、建築物の新築の場合は

  • 歴史的な街並み等街路景観が整っている地域にあっては、周辺との連続性に配慮した配置とすること。その他の地域にあっては、原則として、道路の境界線から1m以上後退した配置とすること。
  • 行為地が道路に面する部分は、出入り口、門、塀等を設置する部分を除き、樹木等により緑化し、かつ、行為地内の緑化面積は行為地面積の3%以上とすること。

といった基準があります。

色彩の基準では、建築物の外壁については、自然系地域で明度8.0を超えるものは使用不可となっています。

奈良県の景観条例の内容

景観法第16条第1項の届出を要する行為のうち、第4号の「条例で定める行為」として、奈良県景観条例では、以下のことを挙げています。

  • 土地の開墾、土石の採取、鉱物の採掘その他の土地の形質変更
  • 屋外における土石、廃棄物、再生資源その他の物件の堆積

したがって、建築物や工作物を設けなくても、土地の形質変更だけで届出対象になります。例えば、一般区域の農地を転用し、野立ての太陽光発電設備を設置する場合、切土盛土が3000㎡を超えるか、擁壁・法面の高さが5m超かつ長さ10m超となると届出が必要になります。

届出に対する勧告については、勧告を受けた者が当該勧告に従わないときは、奈良県景観審議会の意見を聴いた上で、公表することができる、としています。

また、変更命令の対象となる特定届出対象行為としては、

  • 建築物の新築、増築、改築若しくは移転、外観を変更することとなる修繕若しくは模様替又は色彩の変更
  • 工作物の新設、増築、改築若しくは移転、外観を変更することとなる修繕若しくは模様替又は色彩の変更

を定めています。

建築物や工作物は、新設だけでなく、増築や修繕でも命令を受ける可能性があります。

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